遺留分の生前放棄
遺留分とは、相続人である配偶者・子・直系尊属(両親)に、法律上取得することが保証されている相続財産の一定割合です。詳しくは「遺留分について詳しく」をご覧下さい。被相続人が亡くなった後、遺留分の権利を行使するかどうかは各相続人の自由です。このとき、家庭裁判所に申し出る等の手続きは必要ありません。ただし、被相続人の生前に遺留分の放棄をしようとすると、家庭裁判所の許可を受ける必要があります。
遺留分放棄の実益
遺留分を放棄するのは、どういう場面なのでしょうか。モデルケースとしては、相続財産の大部分が自宅不動産で、預貯金はわずかしかなく、被相続人の死後、配偶者が自宅に住み続けたいというような場面が考えられます。遺言で全財産を配偶者に相続させるとしたときに、配偶者以外の相続人(子ども等)が遺留分侵害請求をすると、自宅を売却してそれに充てなければならなくなります。このようなとき、子ども等が遺留分の放棄をすれば、被相続人は安心できます。ただ、遺留分は相続人に認められた権利の最後の砦なので、家庭裁判所は簡単に許可しません。(このケースでは、配偶者居住権で救済できると考えられます)
家庭裁判所の審判手続き
被相続人の生前の遺留分放棄の許可については、家庭裁判所の審判事項です。申し立てを受けた家庭裁判所は、許可を認めるかどうかの審判をしますが、申し立てが相続人自身の真意に基づくものかどうかといった見地から判断を行います。相続人が、被相続人から不当な圧力を受けて、審判の申し立てをせざるを得ない状況に追い込まれているかもしれないため、慎重に判断されます。申し立てれば許可されるといった、簡単なものではないということをご理解下さい。
相続放棄との関係
遺留分放棄は、家庭裁判所に申し立てを行うことにより、被相続人の生前にできますが、相続放棄は、被相続人の生前にはできません。あくまでも被相続人の死後に、家庭裁判所に申し立てることになります。相続放棄は相続人の固有の権利なので、他の相続人が申し立てたり、強要したりすることはできません。どうしても相続させたくないのであれば、被相続人による相続人の廃除という手段がありますが、これこそ家庭裁判所に簡単に認めてもらえるものではありません。詳しくは「相続の廃除・欠格について詳しく」をご覧下さい。また、相続放棄をすると、その子どもが代襲相続人となります。しかし、遺留分放棄をした相続人の子どもは、遺留分放棄者が被相続人より先に亡くなってしまった場合、代襲相続人にはなりますが、遺留分のない権利を取得したとされ、遺留分はないと考えられています。これに対し、遺留分放棄をした相続人が、被相続人より策に亡くなってしまったことにより、次順位の相続人が法定相続人になった場合は、自己固有の相続権を新たに取得したと考えられるため、通常通りの遺留分があります。
まとめ
被相続人からすると、相続人であっても相続させたくない人がいるというのは、ない話ではありません。遺言でその相続人の相続分をゼロにしても、遺留分侵害請求をされれば、一定の財産は払わなければなりません。その相続人が口でいくら「自分は相続放棄するから」「遺留分の請求はしないから」と言っていても、何の保証もありません。その本人が遺留分放棄を家庭裁判所に申立ててくれればいいのですが、現実難しいのではないでしょうか。他の相続人が後々トラブルに巻き込まれないようにするには、遺言書を作る際は、遺留分に配慮した内容にすることをお勧めします。